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美容に携わって30年のある日 忌み嫌ってきた葬儀の仕事を始めるきっかけとなる時は突然訪れた。。
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知人の紹介で来たという若いご夫婦は、六十一才の父親が末期

癌で 最長余命でも三週間と、宣告されて来たのだと言う。

母の友人から ある葬儀社を紹介されているが、弟の知人からは、

あんしんサポートが良いと言われたので話しを聞かせて欲しい。

今晩、母の知人紹介葬儀社から話しを聞く事になっているが、

その前に、あんしんサポートの話を聞いておきたいらしい。

まぁ、普通は母親の友人紹介で、家に来るなら それで決まり

だろうが、折角来てくれたので、普段通り、思うままの話しをし、

相手の話しを聞いて、できるアドバイスはしたのです。

でも、僕の中では若干の違和感があります。 話しの様子から

だけなので 正確ではありませんが、家族みんなが 葬儀をどう

するか? お寺はどうするか? などに振り回され過ぎて、肝心の

入院している父親との時間が 後回しになっている気がして成ら

ないからです。 そこで、帰り間際、来てくれた長男に言います

「葬儀も大切だけど お父さんと色んな話しをしておいたほうが

良いよ」 「はい」そう言って帰った翌日の午後、昨日来社して

くれた本人からの電話で、隣接市にある自宅に来て母親とも

話してくれませんか? との連絡が入り行くことになったのです。

夜七時自宅に伺うと 昨日のご夫婦と母親、二人の弟が待って

いました。一階は一間ですが、変わった作りだなと思っていると、

長男が言います。 「ここ元々倉庫だったのを改装して住んでるん

で台所も丸見えなんですよね。 父親が商売に失敗して自己

破産したからなんですけどね」と言う。 なるほどなぁと思っていると

母親が話し始めます「昨日来た葬儀屋さんは、斎場で葬儀する

時は受付を二人無料で用意してくれると言ってくれました」

「はぁ?あ、そうですか、僕はその土俵にあがる気はありませんから

今日は僕の感覚で話しをさせて貰いますね」 そう言って母親の

顔を見るとムッとしたのが分ります。 「ところで僕を呼んだのは

どんなお話しですか?まさか、その受付の話じゃないですよね?」

さらにムッとした様子です。 それを見た長男が一通りの話をし、

今百万円持っているから 母親はそれで精一杯の葬儀をすると

言うのですが、昨日来た葬儀社も それが良いと言う。 でも、

僕らは父親が葬儀なんて要らない、火葬だけで良いと言ってたの

だから その意に沿えば良いと思うのですが、、との事。

やはり昨日聞いた時に感じた違和感は変わりません 「ある程度

の話しは分りましたが、根本的な部分に間違いが あるような気が

するので、少し僕の話しを聞いてもらって良いですか?」と話し始め

たのです。 「確か、お父さんの余命は長くて三週間ですよね? 

だとしたら葬儀の打ち合せは 確かに大事だけどもっと大切な事が

あるでしょ? いいですか? あと最高でも三週間経ったらお父さん

とは話しも出来ないし、声も聞けなくなるんですよ? だから、今、

みんなが第一に考える事、 それは、少しでもお父さんと一緒の

時間を過ごす事じゃないの? お母さんは明日、今までにみんなで

撮った写真やアルバムを全部持って行き  お父さんと過去の全て

の時間を思い出して話す。 みんなは仕事が終わったらできるだけ

病室に行って お父さんとの思い出を話したり、新たな思い出を

作ること。 それ以外の時間を使って葬儀なんて考えりゃ良い、

それと、みんな看病しよう思っているみたいだけど、もう看病の

時期は過ぎちゃったんですよ。 だから 食いたい物があれば食わ

せる。 外出可能なら行きたいところがあれば出掛ける。 したい

事をさせて、後で自分達に後悔が残らないように、可能な限りの

時間をともに過ごす事じゃない? 違う?」こう言ってみんなの顔を

見ると、先ほどムッとしたお母さんでさえ涙ぐんでいます。

ついでだと思い話しを続けます。 「お母さんは、今ある全財産、

百万円で出来るだけの葬儀をしてあげたいと言いましたね。

気持ちはよーく分かりますが、 自分が病気になる可能性はゼロ

ですか? 予想外支出は絶対に無いと言い切れますか? ねっ 

だから気持ちは分かるけど 無理はしちゃ駄目なんですよ。 

それとね、今日始めて聞きましたが自己破産をしたのなら、大きな

葬儀をしているのを見た債権者はどう思うでしょう、 それに、お父

さんの火葬希望まで加味すると、この部屋で行なう葬儀を第一に

考えるのがベストに思えるのですが、その辺から全てを一旦白紙に

戻して組み直すくらいの時間は充分にありますよ、いかがですか?」

これを聞いたお母さんは「えっ こんなところで出来るんですか?」

「はい 充分できると思います。 ならば、どんな感じになるか図に

してお見せしましょうか?」不思議なものです、たった十分ほど前は

ムッとしてた人が 今は素直に話しを聞き、心を開き始めているの

です。 そこからは、お父さんの話しや、思い出話、、写真アルバム

には家族全員で過ごした 仮装クリスマスの写真もあり、元気な

笑顔のお父さんが、 鹿の角のカチューシャを頭に乗せて写って

います。それを見たお母さんが言います「家が、我が家が好きな人

だから もしもの時は ここにゆっくりさせて あげたいと思ってるんで

すよ」 この家族、父親の事業失敗で、迷惑を掛けた親戚もいる

はず、だから親戚からの圧力も含め 辛い時期を共有した事で

家族の絆が強くなったんだなって思えるのですが、僕自身の過去と

重なるものがあります。あんしんサポート設立のきっかけとなった

父親の逝去通知、その父親が引き起こした倒産、、この家の話を

聞きながら、僕の心の中は十五才の時に倒産した日の出来事が

蘇りました。・・・つづく

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