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化粧の前にクレンジンク紙で顔の汚れを拭き取っていると、頬の
下から血がにじんで来ました。 あれ？ 改めてよく見ると皮膚が
薄いカサプタのようになっているのです。 皮膚色が紫色の場所は
だから変色していたのか・・・と分りました。傷テープを貼り慎重に
化粧を進めます。 まずは紫色の部分全てにコンシーラを塗って
変色を隠すと いつものようにファンデーションを塗り、延ばして、
粉をたっぷり着けてからブラシで取り去ります。 頬紅を指先で
少しづつ置き、自然な赤みを出すと 口紅はファンデーションで
延ばして淡い色味にしてから塗ります。 最後にハードタイプの
ムースで髪を整えると寝顔のお婆ちゃんが完成しました。
先ほどまで 顔半分は紫色だった顔は綺麗な寝顔に変身です。
家族や親戚も喜んでくれましたが、一番喜んだのはお婆ちゃん
だろうなって思います。 顔からの出血は珍しいので聞くと、よくは
分らないようですが、最後はお風呂に入れると皮膚が剥けて出血
するのでシャワーだけになったそうです。 続けて家族が言います。
「Ｃ型肝炎だったからですかね」 家族は何気なく言いますが、
実はこれが恐いのです。 血液感染するからです。
僕は初めからゴム手袋をしていますが、本当？って言いたくなる
ような、あり得ない話しを何度も聞いたことがあります。
それは、納棺師が素手で全ての作業を行なうというものでした。
その話しを聞いた時、あり得ない事なので理由を聞いたところ・・・
ご遺体に失礼だからと言ってたと聞きました。 あり得ません。
っていうか、、あまりに馬鹿げています。
第一に遺体は失礼とは言いませんし、家族も素手でやれなんて
絶対に言いません。 もし言われたとしたら 僕ならしませんし、
自分のところのスタッフなら絶対にさせません。
何も言わない遺体に対しての【失礼だから・・・】はパフォーマンス
でしかないからで、それだけの為にスタッフの生涯に関わるような
行動をさせるなんて考えられないし スタッフを守るのも仕事です。
遺体を素手で触る事が仮に礼を尽くすのだとしたら 遺体に礼を
尽くして健康な人を病気にしたら それこそ本末転倒です。
いつも僕がくちにする「葬儀は大事かもしれないが、後に残った
家族の生活はもっと大事」と逆の事をすることになります。
勿論、その場で言います。「ご家族はお婆ちゃんの顔を撫でて
あげたいでしょうし、お婆ちゃんに触れたいでしょうが、もし、出血
して皆さんの指先に傷があったら、何が起こるか分りませんから
声を掛けるだけにしてくださいね」 僕らは、必要な知識は持って
何も知らない家族の健康を守るのも仕事のひとつだと思います。
空気感染するような病気で亡くなった方が布団に寝かされている
なんて事はあり得ないですが、血液感染はあり得る話しなので、
何処の、誰の葬儀であっても、無闇にご遺体に触れないほうが
無難だということだけは覚えておいてくださいね。 当然ですが、
化粧に使用した全ての道具は焼却処分します。・・・つづく
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