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これで、明日は綺麗に化粧した顔で、近所の人達に会えます。
午前１１時に近所の人達がお線香をあげに来てくれるそうなので
納棺は午後からに変更しました。 この数日は天候も悪くて雨
が降っているので、猛暑では無いとの判断。 多少納棺がずれ
ても１回のドライアイスで賄えると判断したからです。
翌日の午後伺うと 案の定ドライアイスは半分以上残っています
ので ひとつひとつ包みなおしておきます。
集まった親族で納棺をして着物や好きだった洋服、三途の川の
渡し賃を入れ、好きだったタコ焼きと入れていきます。
納棺が済むと、親族の皆さんが質問をしてきました。
「昔は念仏を唱えたけど今はないのですか？」と聞かれたので、
「十三仏のことですか？」と言うと「そうです」との事、十三仏の
話や三十三回忌までの話しなどをします。 そのあとも、いくつか
質問にお答えしたあとで、親戚からお坊さんが居ない火葬だけの
葬儀でも良いのか？ というような話しが出たので言います。
「今の時代、人知れず亡くなって何日も経ってから見つかるような
孤独死は年間３万人以上いますし、亡くなっても誰も引き取り手
のないご遺体はいくらでもあります。 お婆ちゃんは最後まで施設
の人達に見守られて、亡くなってからは１０人以上の人達が来て
くれて こうして棺を囲んで話しをしているじゃないですか・・・
明日は家族に見送られて火葬炉に入り、焼骨は家族が拾骨を
して、家族の手で散骨という自然に還る供養をするのです。
充分立派な葬儀だし、皆さんに見守られて旅立つお婆ちゃんは
幸せだと思いますよ。きっとこの場に居てニコニコしながら うんうん
って頷いてくれていますよ」 こんな話しをしたのです。
翌日の火葬後、焼骨を預かり粉骨にして散骨場に向かう車中、
ご夫婦が言います。 納棺の時に色々質問をされたお婆さんは
結構うるさい人らしのですが、どんな質問にも即座に答えてくれ
どんな質問でも納得できる話しをしてくれたから火葬の待ち時間
には「最初から最後まで温かくて、良い葬儀屋さんで本当に良か
ったね」と言ってくれたのだそうです。 僕らの目的である後悔の
無い葬儀と 葬儀の最中、家族に寂しい思いをさせたくない
その両方が達成できたようです。 これが何よりの喜びです。
今回の火葬葬儀では、パンフレットをくださいという人が１０人ほど
居たのと、自分達の時や 我が家の時もお願いしたいと言われた
人達も結構いたので、少なくとも合格点は貰えたのでしょう。
最後の集金で、見積書と全く同じ金額だけで済んだのが
「ほんとうだったんですね」と不思議そうにしていました。
僕らには、その感覚のほうが不思議ですけど・・・。 つづく
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化粧の前にクレンジンク紙で顔の汚れを拭き取っていると、頬の
下から血がにじんで来ました。 あれ？ 改めてよく見ると皮膚が
薄いカサプタのようになっているのです。 皮膚色が紫色の場所は
だから変色していたのか・・・と分りました。傷テープを貼り慎重に
化粧を進めます。 まずは紫色の部分全てにコンシーラを塗って
変色を隠すと いつものようにファンデーションを塗り、延ばして、
粉をたっぷり着けてからブラシで取り去ります。 頬紅を指先で
少しづつ置き、自然な赤みを出すと 口紅はファンデーションで
延ばして淡い色味にしてから塗ります。 最後にハードタイプの
ムースで髪を整えると寝顔のお婆ちゃんが完成しました。
先ほどまで 顔半分は紫色だった顔は綺麗な寝顔に変身です。
家族や親戚も喜んでくれましたが、一番喜んだのはお婆ちゃん
だろうなって思います。 顔からの出血は珍しいので聞くと、よくは
分らないようですが、最後はお風呂に入れると皮膚が剥けて出血
するのでシャワーだけになったそうです。 続けて家族が言います。
「Ｃ型肝炎だったからですかね」 家族は何気なく言いますが、
実はこれが恐いのです。 血液感染するからです。
僕は初めからゴム手袋をしていますが、本当？って言いたくなる
ような、あり得ない話しを何度も聞いたことがあります。
それは、納棺師が素手で全ての作業を行なうというものでした。
その話しを聞いた時、あり得ない事なので理由を聞いたところ・・・
ご遺体に失礼だからと言ってたと聞きました。 あり得ません。
っていうか、、あまりに馬鹿げています。
第一に遺体は失礼とは言いませんし、家族も素手でやれなんて
絶対に言いません。 もし言われたとしたら 僕ならしませんし、
自分のところのスタッフなら絶対にさせません。
何も言わない遺体に対しての【失礼だから・・・】はパフォーマンス
でしかないからで、それだけの為にスタッフの生涯に関わるような
行動をさせるなんて考えられないし スタッフを守るのも仕事です。
遺体を素手で触る事が仮に礼を尽くすのだとしたら 遺体に礼を
尽くして健康な人を病気にしたら それこそ本末転倒です。
いつも僕がくちにする「葬儀は大事かもしれないが、後に残った
家族の生活はもっと大事」と逆の事をすることになります。
勿論、その場で言います。「ご家族はお婆ちゃんの顔を撫でて
あげたいでしょうし、お婆ちゃんに触れたいでしょうが、もし、出血
して皆さんの指先に傷があったら、何が起こるか分りませんから
声を掛けるだけにしてくださいね」 僕らは、必要な知識は持って
何も知らない家族の健康を守るのも仕事のひとつだと思います。
空気感染するような病気で亡くなった方が布団に寝かされている
なんて事はあり得ないですが、血液感染はあり得る話しなので、
何処の、誰の葬儀であっても、無闇にご遺体に触れないほうが
無難だということだけは覚えておいてくださいね。 当然ですが、
化粧に使用した全ての道具は焼却処分します。・・・つづく
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１８日の午後６時を過ぎた頃、一本の電話で葬儀依頼です。
１７日都内での講習があったので １６日夕方に「明日は都内に
出かけますが 今の時点での様子はいかがですか？ もし、１７日
何かあっても、ちゃんと対応はしますから安心してくださいな」という
旨の電話連絡をしてあったうちの一軒からの電話でした。
１６日の電話では「いますぐどうのという感じではないから大丈夫
ですよ。ご心配ありがとうございます」という電話での話しでしたが、
対象者であるお婆ちゃんが 僕の講演だからって一日待っていて
くれたのかもしれませんね。
電話を受けると、事前相談は済んでいるので すぐに火葬日時の
予約をし、ドライアイスを取りに行ってから 指定されていた病院に
向かいます。 今回は事務所のある前橋市から西に隣接をする
高崎市の介護施設を併設した病院です。
車で３０分ほどの距離で、市内から北部に位置する環状線を
少し入ったところにある病院に到着すると閉まっています。あれ？
そのまま入って来たのと反対側の道路に出ると 隣接した施設の
前で職員の方々が待っていてくれました。 建物の中に入っても
病院とは少し違う印象ですし、何人もの入居者の方もいます。
ここでまた、ひとつ学びました。 老人介護施設は一般的に終幕
である看取りは行なわない施設が殆どですが、もしかしたら病院
併設なら看取りもしてくれるって事なんでしょうね。
お婆ちゃんをストレッチャーで運び出して寝台車に乗せると玄関の
前では１０名以上のスタッフが見送ってくれました。
そこから、ほんの数分走るとお婆ちゃんの自宅である市営団地に
到着です。１階の部屋なので問題なく安置できます。
６畳の間に布団を敷き、お婆ちゃんを寝かせるとドライアイス処置
してタオルケット、布団を掛け、末期の水を家族親族にとって貰い
線香をあげると 最終の打ち合わせ確認です。
事前相談をしたのは【火葬支援パック５万円】＋【化粧＋枕花
＋守り刀】で１７８５０円の追加です。 それに散骨５００００円が
あるので全ての合計１１７８５０円のお葬式でしたが、変更は無く
事前相談通り２０日午前１１時の火葬 ・ １２時３０分拾骨 ・
そのまま焼骨はお預りして前橋の事務所に戻って粉骨作業をし
午後２時～２時３０分に前橋を出発、午後４時頃には散骨場
到着で散骨をして 午後６時前後に前橋に戻るスケジュールで
決まりました。 一日で全て行なうのは疲れるような気もするでし
ょうが現実は 一日で全て完了したほうが楽なのです。
日程も決まり、費用も当初の１１７８５０円のままで決まりました。
打ち合わせが済むと、お婆ちゃんの死化粧を始めます・・・つづく
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