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七月の始め、 まだ真夏と言うより、 梅雨が間も無く明ける頃、
隣接市から依頼が入り、搬送専門業者さんに連絡、ドライアイス
屋さんに行き、 指定された病院に向います。 その病院には、
大手葬儀社数社が入っており、故人の処置は それらの葬儀社が
行っているようです。 搬送や葬儀依頼社が決まっている時は、
処置だけを行い、 決まってない時は そのご遺体を担当した葬儀
社が搬送するので葬儀依頼へ繋がるのでしょう。 我々が病院に
到着し 安置所の扉を開けて中に入ると丁度処置が済んだところ
のようです。が、肝心のご家族の姿が見えません。 聞くと突然、
亡くなられたので警察の検死が入り、手間取っているのだそうです。
小一時間も待ったでしょうか、我々の前に現れたのは初老の男性
でした。 寝台車に男性も乗り、後に付いて行くと数分で到着した
のは八階立てのビルの七階が自宅だとの事です。 エレベーターを
一階に下げると小さくて、とてもストレッチャーは入りません。 そこで
搬送シートに付いている取っ手を持ち 椅子に座ったような形で
エレベーターに乗り込みました。大きな布団に寝かせ、ドライアイス
処置を行うと葬儀の打ち合わせです。 葬儀は最高でも十人ほど
なので自宅の部屋で良いとの事 ただ二人は夫婦でなく、内縁の
関係で住所はともに都内だと言う。えっ？だとすると火葬の費用が
掛りますが、、それを聞いた隣に座っていた方で、我々に電話をして
くれたらしい方が僕が前橋だから申請者に成りますよ。 というので
す。 「はい分りました」簡単に返事をしたのですが、これが後でとん
でも無い結果となるのです。 死亡届けを書き、前橋斎場に火葬
予約を入れると一旦、 前橋に戻って自宅葬儀用の道具を積み
込み、葬家に戻った頃は 辺りが薄暗く成り始めていました。
小さなエレベーターに荷物を積み込むだけでも、扉が何度も閉ま
ろうとするので大変です。何とか部屋に道具を入れると幕張りです。
初めて使う格子の屏風や三段の祭壇などの設営に慣れない我々
はグッタリです。 その頃には故人の兄弟姉妹や親族数人が集ま
っており、我々の仕事を見ています。 安置祭壇であり葬儀祭壇
でもある設営が完了すると、化粧を始めます。 手を合わせ、顔の
当て布を取ると 心筋梗塞で倒れた時に顔を打ったのでしょうか、
顔にアザが出来ています。 初老ですが小奇麗にしている女性で
す。 手足にマニキュア、ペディキュアもしてあり、おしゃれな方のよう
です。 きっと、姉妹達に会うなら綺麗な顔で会いたいって思うだろ
うと、隣に居た千明に、すぐにコンシーラを買ってくるよう指示をして、
化粧道具の準備をし、クレンジングで顔を綺麗に拭きとってファンデ
ーションや口紅の色を作りながら、千明を待ちます。間も無く帰って
きた千明からコンシーラを受け取ると化粧が始まります。 アザの
部分はコンシーラで隠してから ファンデーションを塗りましたので、
アザになっているのは分りません。 僕のくちからは「綺麗になって
みんなに会おうね。 頑張るからね」 と側で言い聞かせるように
小声で話します。 化粧を終えてみると結構、美人さんです。
次は髪の手入れです。 ムースで処理をし、必要なら黒ゴムも
使います。 化粧が済むともう一度ドライアイスで処置して、待って
いた皆さんに線香をあげて貰います。 本日、葬家での仕事が
完了すると事務所に戻ります。 明日は湯かん、納棺をし、当方
紹介のお寺が葬儀、 そして火葬なので 朝一番の午前九時に
前橋市役所に行き、 死亡届けを提出、 十一時から湯かん、
納棺の儀 午後一時から自宅葬儀、午後三時の火葬、午後
四時三十分拾骨、自宅に戻って安置して終了。 明日の予定を
確認し、問題は無さそう。 と、初めてのオリジナル葬儀は順調に
進展しているように思えた当日の朝、 市役所に行き死亡届けを
提出すると、 どんなに調べても 申請者と故人が繋がらないと
窓口の担当者に言われたのです。「えっ？親戚の人ですよね？」
担当者は「私もそう思って戸籍を辿ったのですが全く繋がりません
でも、この方は東京ではなく高崎市民ですよ」・・・つづく
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自分が故人になったとして、 暫く病院のベットで寝ていたとして、
自宅に戻り、 初めて見る人達数人で素っ裸でお風呂に入れて、
綺麗にして欲しいですか？ 欲しくないですか？ きっと家族で
ある故人もあなたと同じ感覚だと思います。 それを基準に費用も
考慮した上で依頼をするか、しないかを決めれば間違いは無いで
しょう。 湯かんから、納棺の儀と進み、最後に真綿で男性は
紋服姿、女性は綿帽子の白無垢姿を作るのを 初めて見た時
から違和感のあったのが白無垢姿で 婚礼を仕事にしてきた人間
だからの拘りなのでしょう。 確かに、死ぬ覚悟で嫁に行くからの白
という説が無い訳ではないのですが、 今の時代には全く当てはま
りません。白無垢とは、あなたの色に染まります、、あなたの家風に
染まります。 そして、迷わない為に色が無いからで、迷わないとは
仏から来ている由来であり、 白無垢より仏のほうが先であるから
です。 ですが、袴姿であれ、白無垢姿であれ、感動される方は
多いので 何か他の衣裳姿は出来ないかを検討してきたのですが
この一年後、 男女共有の衣裳として生まれたのが 「法衣姿」で
した。 観音様のような お地蔵様のような姿になります。ひとつ、
ひとつ、形を整え、葬家の家族目線でと 葬儀の技術や訓練を
積みながら、利益は全て葬具を揃える費用に費やしました。
確か最初に買い揃えたのは、火葬だけの葬儀を自分達だけで
行なえるようにと、経机、枕飾り一式（線香具）だったと思います。
葬儀費用総額が安いのですから 当然、利益も少ない訳で、
高い葬儀業界の品物だけでなくネットを中心にホームセンターで
購入、工夫して一年、ようやく葬具も一通り揃えられたのです。
「あんしんサポートオリジナル葬儀始動」
法人設立から一年半が過ぎた頃、ひとつの冒険に打って出ます。
それは、まだ一度もやった事の無い自分達だけで全てを行なう
葬儀、、と言うか、、全てを自分達でせざるを得ない料金設定の
パンフレットを作成したのです。 十八万九千円の自宅での家族
葬儀、この金額では、到底、提携社に依頼できません。 今まで
支払ってきた額より遥かに低い料金だからです。 もし、依頼が来
たらどうするのか？ 本当にできるのか？ 僕の経営する美容室の
道路脇に あんしんサポートの看板もあるのですが、どうせ直す
ならと、火葬八万九千九百円も書いて貰いましたが、本当に
それでできるのか？ 原価割れしないかと不安だらけです。
その時僕はこんな風に言ったのだそうです。 「火葬依頼で赤字が
出るなら、その分の損をすれば良いだけの事、広告宣伝費だと
思えば良いし、依頼が来るまでに赤字に成らない方法を考えれば
良い」実にアバウトで、大雑把な感覚ですが、いつも石橋を叩いて
たら成せる事も成せません。 目を瞑って一気に走り抜けるような
事だってあると思っています。なんてかっこうの良い事を言ってますが
ようは、いい加減で適当な奴なのでしょう。全てをイラストレーターで
作成し、印刷だけを京都の印刷業者さんに頼むとＡ４両面カラー
印刷千枚でも五千円はしません。 そんなパンフが出来て一ヶ月
ほど経った頃、 火葬だけの葬儀八万九千九百円の依頼が
入ったのです。 この頃はすでに 赤字に成らない程度の原価計
算はできていましたが、儲かるか儲からないかって言われたら、
儲かりませんと言い切れる感じです。 でも、この一軒の火葬から
五万円火葬の実現は可能だと分るのですから ちっとも無駄では
ありませんでした。 それから、数ヶ月経ち、法人設立から二年後
いよいよ初のオリジナル葬儀が始動するのです。・・・つづく
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ならば、 この部分はできるだけオリジナルにして、他では真似の
できない何かをする？ 或いは、作る？ 必要もあると思い始め
ました。 そこで、車を運転しながら各社の納棺師の話を思い出
して車内で声に出してみます。すると、各社が共通してイマイチな
場面があるのに気づいたのです。 みなさんの中でも、湯かん、
納棺の儀に出た人は思い出してください。 最近は専門業者が
行なう湯かんもありますが、圧倒的に多いのは洗浄綿を使って、
手足を拭く簡易湯かんです。 湯かんの時って拭いてる人以外は
やたら暇じゃありませんか？ それに、故人のご兄弟の方、故人の
叔父様、、 叔母様、、とかっていちいち相手を指定したり、次に
お近い方、、なんて言うから、 みんなして キョロキョロ顔を見合
わせる事になっている訳です。 そこで、 あんしんサポートでは
洗浄綿をトレーに並べて置き、横にゴミ袋を置いて、お近くの方
から順に、男性は手元、女性は足元を拭いてください。 この時、
ただ身体を拭くのではなく、今生の業（ごう）や 欲や 恨み 妬み
様々な負の感情や 心も綺麗に拭い去る気持ちで、後の事は
気にしなくて良いから、今度生まれてくる時は より良い人生に
なれるようにって心の中で故人に語りながら、拭いてくださいね。
と言い、あとの順番は家族、親族にお任せするのです。 すると、
僕自身の身体もくちも空きます。 そこで、新盆などでも目にする
十三の仏さんの絵が描いてある 十三仏の話をしたり、親族が
多い時には、時々皆さんから質問される 焼香の回数や、線香の
数、 宮川紙の由来や ご霊前、ご仏前と書かれた封筒の使い
分け等々、話をする事にしています。それと、葬儀前日の湯かん、
納棺の儀というパターンが多いのですが、 黒の服ではなく、普段
着で集まって貰うようにしています。 だって翌日の葬儀までにズボ
ンにアイロン掛けなきゃってなるし、服装なんて何でも良いしね。
湯かんだけでなく、 納棺でも、 安置でも全ての流れを検討して
いると、湯かん、納棺の直前に、初めて化粧をしている納棺師の
姿が目に飛び込んで来たのです。 もう何十回も見てきた様子、
それなのに何かが引っ掛かります。 なんでだろう？、、映画「おくり
びと」でも同じようにしていたのに、、すると、僕の頭の中に昨日の
情景が浮かんできました。 病院から搬送して、自宅の布団に
安置をし、末期の水を家族で取り、 線香を上げ、 葬儀打ち
合せを済ませた頃、親戚やら、隣保の人達が線香をあげに来て、
故人と対面しているのです。 今日の湯かん、納棺は親族だけ
隣保の人達はいません。 そう、、故人が綺麗に化粧をした顔を
見るのは、ここに居る人達だけで 他の人達は皆さん素顔だけを
見るのです。 どうせなら、家族は綺麗な顔を見せたいだろうに、、
何でだろう、、 それは、単純に費用の問題でした。 納棺師を
一度で済ませる為の措置なのです。 なら、自分が納棺師をする
ようになったら、 ドライアイスを当て、 打合せをしたらある程度は
固まってくるだろうから、その時点で化粧をしてあげよう、、故人が
女性なら、なおさらのこと誰だって綺麗な顔で、みんなに会いたい
って思うもんな、、これもまた、オリジナルの対応です。 湯かん、
納棺では、もうひとつあります。 業者湯かんの是非を我々に聞く
家族の方が居ますが、 湯かんに限らず、 自分が故人なら、、
と考えてくれたら、簡単に答えの出ることが多いはずです。・・つづく
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